水の歳事記 vol.005
夜庭(よにわ)
人のいのちに密接につながっている水。季節とともに水のある生活風景をお届けします。今回は、収穫の秋を前に農家の生活と水をテーマにしました。
水飲んで夜庭に戻る男かな 戸川稲村(とうそん)
むかしの農山村には働き手の男たちが助け合う「結(ゆい)」と呼ばれる互助会のような組織がありました。今のように機械化されていなかった生活の中では、お互いの事情を十分認識しながら、日常生活に直接入りこんで助け合っていた事実があります。
田植え、稲刈り、籾摺り(もみすり)などの仕事を、頼まれなくても段取りの遅れている家に訪ねていって助け合い、地域の人間同士の絆が太く結ばれていたのです。
籾摺りのお手伝いを「夜庭」と言って田畑の多い大規模農家では夜遅くまで仕事をしなくては終わらなかったのです。
一寸一休みに汲み置きのかめや桶から、ひしゃくで水を汲んで飲み、もうひと頑張りしようとする姿が目に浮かびます。血液の中に溜まった疲労素を溶かしてくれる自然水である井戸水の効用が農作業をはかどらせていたのでしょう。
事務所で仕事中、座りっぱなしの椅子から立ち上がって一杯の天恵水を飲むときには同じような爽快感があります。
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