水の歳事記 vol.008
日本酒の美味しい季節
人のいのちに密接につながっている水。季節とともに水のある生活風景をお届けします。
寒造(かんづくり)はじまる水の生きてきし 後藤比奈夫
酒は寒造りが最高です。まず、良い水がベースにあって、次に良い米が求められます。美味しい純米酒になって蔵から出荷されるまでには、杜氏(とうじ)の手で、こどもを育てるように大切に作った酒母を育み、発酵樽でもろみを育み、寒中の水の旨みで発酵を助けていくのです。
冬到来を告げる北風が頬をなでて通り過ぎると、冬の寒さと向き合う覚悟をきめます。しかし、冬には酒を飲むことで人々のこころをつないでいく楽しみもあります。旬の肴をつまみながら、肩寄せ合って語り合うことは、のん兵衛にとっては、至福の喜びとなるでしょう。
五月の薫風(くんぷう)がさわやかに吹くまで、じっくり熟成します。この寒造りがやがて酒飲みたちに喜ばれるのです。すべてのはじまりは、「自然水」です。
秋も深まり、きびしい寒さが到来する頃になると、山々の樹木は水分を吸わなくなり、逆に樹木内に貯えた水分を放出してくれます。これらの水を含み、これからは1年を通して水の一番おいしい季節となります。
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